あらゆる業界で「生産性の向上」が叫ばれる昨今ですから、もちろん運送業も働き方改革の促進が求められています。しかし、実は国が定める「働き方改革関連法」では、運送業は他業種と異なる扱いがあることをご存じない方も多いようです。
そこでこのコラムでは、まず「働き方改革」自体の解説と、運送業特有の規定を紹介したうえで、具体的な改革方法も記載していきます。運送業界で生き残っていくためにも、ぜひ参考にしてください。
「働き方改革」とは
ここではまず、そもそも「働き方改革」とは何か、という点から説明します。
日本語の意味としては、「働き方を変えて効率や利益を上げようとする動き」と考えて問題ありません。しかし、「働き方改革」という言葉には、政治政策的な意味が強く含まれています。
日本では他国以上に少子高齢化が激しいこと、労働生産性が多くの国に比べて著しく低いことは昨今ニュースなどで報道されているので誰もが知る事実です。これを改善するために国会でも2015年頃から政治的議論が交わされることが増えました。
そこで2015年や2016年に政府与党は法案を出しますが、これは富裕層や経営者目線に寄ったもので、労働者の就労環境を良くすることにつながるのかが疑問視されます。内容的には、労働力不足を補うために、それ以前より労働時間を増やすことができる内容になっており、経営者が利益を得やすい仕組みが目立ちました。このため「過労死が増える」、「働き方改革ではなく働かせ方改革」などの批判が集中し、いったん廃案になります。
その後ある程度マイルドになった「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」が2018年に国会を通過し、2019年から施工が始まっています。
次の項目では法的に決定された「働き方改革」の内容や特徴をまず示しますが、ここまでに書いた経緯を踏まえて、運送業界でみんなが楽しく健康に働くための「働き方改革」についてもさらに次の項で解説します。
運送業における働き方改革の特徴
ここからは現在運用されている「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」の運送業に関連する部分をピックアップして解説します。
時間外労働の上限規制
時間外労働(いわゆる残業)には上限規制がありますが、トラックドライバーは就労環境が一般的な労働者と異なるため、異なるルールが適用されることになっています。ここでは一般的な業種と運送業での違いを解説します。
時間外労働の上限規制について他業種との違い
運送業を含まない一般的な業種では、2020年4月以降、労働時間は原則1日8時間、週40時間以内、36協定を結んだ場合時間外労働は月に45時間まで、年間360時間までと決められています。また、特別条項付き36協定を結んだ場合、休日労働を含まず年間720時間が上限となります。
一方、運送業には上記の数値は適用されておらず、2024年4月から、休日労働を含まない時間外労働は月に80時間以内、年間に960時間以内となることが決められています。
正規非正規社員の同一労働同一賃金
近年労働者の非正規化はどんどん進んでおり、運送業界でも非正規雇用状態で働いている人は多数存在します。多様な働き方が広まることには良い面もありますが、雇用状態によって賃金格差が拡大することは望ましくありません。そこで、「同一労働同一賃金」というルールが2020年からまず大企業に適用され始め、2021年4月には中小企業も含めてこのルールを守ることが義務付けられています。
具体例として、社員で働いていたドライバーが定年後に非正規雇用に移行した場合、この法律ができる以前は同じ労働をしていてもその労働に対する手当が減らされるケースが多くありました。しかし、現在は就労形態に寄らず同一賃金を支払う義務があるので、上記の例で訴訟を起こされると会社側が敗訴する可能性が高くなっています。
月60時間を超える時間外割増賃金率の引上
2023年4月以降は、月に60時間を超えて時間外労働をした場合、時間外労働の割増賃金は50%になることが決定しています。長時間労働をさせると経営者にとって不利になるため、結果的に長時間労働が減るだろうという狙いです。
年休5日取得の義務化
2019年4月から労働基準法が改正されたことによって、年間に年休を10以上付与された労働者には、1年間のうちに5日以上年休を取得することが義務付けられています。
この義務を守らない場合罰則がありますが、それは労働者ではなく管理者側に課せられるものです。年間に5日以上の有休を消化させなかった場合は、労働基準法第120条によって30万円以下の罰金が科せられます。また、労働者が取得できるはずの年休を請求したときにそれを与えなかった場合は、労働基準法第119条に沿って6ヶ月以下の懲役刑を科せられる可能性もあります。
このため、経営者や管理者は、従業員の年休取得を適切に管理する必要があります。
運送業の経営者が働き方改革に対応するために取り組むべきアクション
ここからは、運送業の経営者が働き方改革のために取り組むべきアクションを具体的に解説します。
労働生産性を向上させる工夫
従来の日本では、利益を上げようとするときに労働時間を増やす方向で頑張る労働集約型の働き方が中心でした。しかし、少子高齢化による就労人口の減少によって労働時間を拡大していくことには限界が見えていますから、時間ではなく生産性を向上しなければ安定的に利益を確保することが出来なくなっています。
運送業で生産性を低下させているものの代表例と言えば、荷待ち時間と荷役時間を上げる会社は多いと思います。この問題を削減するためには、トラック受付システムを活用することや荷役のパレット化を促進すること、積極的に省力化機器や作業アシスト機器を導入することなどが考えられます。
また、輸送中に高速道路を有効活用することで、時間外手当を削減出来たり、輸送効率を上げたりもできます。高速道路の使用料金を考えて二の足を踏んでいる企業もあるかと思いますが、移送時間が短くなれば事故のリスクも減りますし、燃費向上による経費削減も期待できます。ぜひトータル的に検討したうえで、高速道路使用・不使用の条件を再考してみてください。
さらに、ドライバーが1件の運送業務に携わる時間を減らすために、中継輸送を拡大するのも効率改善につながります。中継輸送には貨物を積み替える方式やドライバーが後退する方式などさまざまな手段があるので、状況にあった対策を検討してみることをおすすめします。
適正取引を推進させる工夫
効率改善を考えるときは、実際にドライバーが稼働している作業に目を向けがちですが、取引に関連する業務を見直すことも働き方改革につながります。
まずは運転時間や拘束時間、契約内容や運送条件などを書面化・記録化することが改善の第一歩です。現在書類化があまり進んでいない職場では、最初に手間が増えることが懸念されると思います。しかし、書類化・記録化がある程度進んで流れやフォーマット化が出来れば、次第に手間がかからなくなり、最終的には多くの業務の効率化ができます。
また、業務を「見える化」することで、それまで見えていなかった無理・無駄が可視化しやすくなりますから、書類や記録を残すことは結果的に適正取引の推進に貢献するでしょう。
さらに、経営サイドがコンプライアンス(法や規則を守ること)を強化することも、適正取引の推進には欠かすことができません。もし経営者に、雇用に関連するコンプライアンスを守る意識が薄い場合、雇用されている従業員のモチベーションが上がらないので、利益の向上は望めません。
利益向上どころか、従業員が一斉に辞めてしまうこともあり得ますし、口コミなどに「ブラック企業」と書き込まれると新たな雇用も難しくなります。もちろん法を犯すような雇用状態であれば、労働基準法に触れて訴訟される可能性もありますし、労働基準監督署から注意を受けるなどして大変なダメージを受けることもあり得ます。
一方、経営者が率先してコンプライアンス遵守に取り組めば、従業員は経営者の適切な努力を評価してモチベーションを上げます。すると、日常の作業効率が上がるばかりでなく、長く働きたいと希望する人も増えますから、安定的な利益確保につながっていくでしょう。
多様な人材を確保・育成する工夫
運送業界には平均的に働き盛りの男性を求める傾向がありますが、現実的には20代から40代の男性ドライバーを確保することにはどの会社も苦労しています。
その一方で、高齢者や女性がドライバーとしての仕事を求める傾向は上がっていますから、多様な人材を確保しながら利益を追求できる体制を築くことが非常に重要です。実際に、子育て中の女性が働きやすいように、労働時間の自由度を上げる取り組みを行って雇用の安定や生産性向上に成功している企業もあります。
また、年齢性別に寄らず従業員の「働きがい」を上げる取り組みをすることも重要です。会社から高く評価されていると自覚すること、評価を給与や待遇に反映することはモチベーションアップにつながり、生産性の向上に寄与します。
さらに、ドライバーを務めている人に、年齢が上がったときや肉体的に作業がきついと感じたときに営業職や事務職に移行できる環境を整えることや、管理職として働くキャリアパスを示すことも雇用の安定につながります。
ほかにも、若年層を確保するために、大型免許の取得にかかる費用を補助することを公表している企業もあります。若年層にとって大型免許を取ることは収入アップに直結しますから、人材確保の方法として有効です。
経営改善
トラックドライバーは平均的に収入が高いとは言えない業種なので、今従事している人が他業種に流出しやすく、新規に入ってくる人を増やしにくい現状があります。そんな中でも「運送業で働きたい」という人はいますから、ある意味で、今こそ待遇を上げるメリットがあります。
仮に業界全体の平均年収が上がれば、賃上げの動きは目立ちませんが、今であれば競合他社に率先して「業界の就労状況改善に取り組む会社」というアピールも可能です。
とは言え、働き方を改革するにも費用が必要なことが多く、アイデアはあっても財政的に無理、という会社もあるでしょう。そんな時は、ぜひ助成金や補助金の利用を検討してみましょう。
助成金・補助金の内容は所属する地方自治体や年度によって異なりますが、設備の導入や人材雇用にかかる費用の一部を補ってくれるものが少なくありません。また、融資と違って返済の必要が無いので、経営基盤の強化に直結できるのも大きな魅力です。
ブルック・コンサルティングがサポートできること
中央区銀座に位置するブルック・コンサルティングは、経営改善のための資金サポートを得意としています。今回紹介した改革の中には、設備投資や人的投資など、費用を必要とするものもありますから、まずは経営改善を行い、プロフェッショナルの資金調達サポートを受けて財政面の不安を減らすことが改革を推進に役立つでしょう。
また、ITシステム導入や人材雇用などに関する助成金・補助金を利用したくても申請の仕方が良く分からないという場合、ブルック・コンサルティングは申請作業をサポートすることが出来ます。
まとめ
「働き方改革」が叫ばれる昨今の情勢を踏まえて、運送業の現実に即した「働き方改革」はどのように進めるべきかを解説しました。
まずは法的な取り決めをしっかりすることが必要ですが、決まりに追従するだけでは真の改革はできません。競合他社に率先して改革を進め、働きやすい環境を作りながら利益向上を果たすことこそが経営者に求められています。
とは言え財政面での不安が多いと設備投資や人的投資もできませんし、改革に専念することも困難です。そんな時は、経営改善・資金調達のサポートを得意とするブルック・コンサルティングにご相談ください。
弊社は銀行融資などのサポートのほかに、補助金・助成金の申請なども丁寧にアシストしています。運送業の経営改善、資金調達をお考えであれば、多数の実績を持つブルック・コンサルティングにお気軽にご相談ください。