ここ数年、人手不足から倒産する運送業者が増えています。ECサイトを利用した通販の拡大やコロナ禍による影響で運送業への需要は増えているはずなのに、なぜ業界全体が人手不足におちいっているのでしょうか?
このコラムでは、運送業で人手が不足する原因を、数値的根拠を持って徹底解説し、企業が倒産するリスクを回避する方法を紹介していきます。
運送業が倒産する大きな理由は人手不足
世間にECサイトが浸透したことや、コロナ禍による配送ニーズの増加によって、運送業全体への業務依頼は増え続けているのが現実です。
国土交通省が出した『宅配便取引個数の推移』という資料によれば、2009年度に約31万個だった宅配数は、2016年度に40万個を超えており、2019年度まで40万個台で増加を続けています。
※参考:https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha04_hh_000222.html
そのため業界の総売り上げは下降していないはずのですが、人手不足は年々深刻化しています。これは現役従業員が高齢化していることや、少子化の影響で働く世代が減少していること、賃金や待遇を上げることが難しいことなどで後継者や新入社員が育たないからです。
これらの事情以外にも多数の要因があって、運送業を営む会社の倒産に拍車がかかっています。以下の項目で、より詳しく倒産リスクを分析していきましょう。
人手不足が引き起こす倒産リスク①ドライバー不足による対応案件の減少
運送業界は通販業界が発達したことや、コロナ禍の影響で、仕事自体は増加傾向にあります。しかし、新規に運送業に就職する若者は多くはないので、自然とどの会社も人手不足になっています。
ドライバーは長時間労働や力仕事を強いられるわりに、平均的な収入はほかの産業に比べて低い傾向が見られます。厚生労働省の資料によれば、2016年の全産業の平均所得額が490万円であるのに対して、大型トラックドライバーは447万円、中小型トラックドライバーは399万円と明らかに低いことがわかっています。
このような状態が続くと運送業界への就職を希望する人は減り続け、さらに状態が悪化することが懸念されます。
※参考:https://www.mlit.go.jp/common/001242557.pdf
人手不足が引き起こす倒産リスク②ドライバーへの仕事量が過多になり更なる退職を招く
運送業は新規に就く人が少なく、現在就業している人は高齢化の傾向があります。そのように慢性的な人手不足の状態にある中で、運送業の需要は増えているため、各ドライバーにかかる負担が増え続ける傾向があります。これらの理由で心身の疲労が増加し、退職の選択をする人が増え続けるため、マイナスのスパイラルが続いています。
公益社団法人 全日本トラック協会が出している『トラック運送業界の景況感』という資料によれば、運送業界の人手不足感を数値化した場合、2013年の時点でも不足していると実感されていたのに、2019年には不足感が3倍近く上がっています。
※参考:https://jta.or.jp/member/chosa/keikyo.html
これは感覚的なものなので実数値ではありませんが、業界にいる人が人手不足を実感し続けていることが顕著にわかる資料と言えるでしょう。
また、日本銀行が2017年に出した『雇用人員判断指数』というデータでは、多くの産業の中で人手不足のトップは「宿泊・飲食サービス」ですが、「運輸・郵便」などの運送業は第2位となっています。
このようにあらゆるデータから見て、運送業の人手不足は明確で深刻なものであることがわかります。
人手不足が引き起こす倒産リスク③後継者の消失
中小規模の運送会社は、比較的家族で運営していることが多い特徴を持っています。そのため、経営者が高齢化するに伴って、経理や事務職を担っていたパートナーも一緒に高齢化するパターンが多く見られます。
経営状態が良好であれば子息への引き継ぎを積極的に行う企業も多いでしょう。しかし、零細・赤字状態が続いている企業が多いことから、子息に引き継がせる意思を持ちにくい実情があります。そのため、経営者の年齢が上がるとともに、廃業を選択する運送会社が多いのです。
また、家族経営をしていない会社であれば、社内に有望な後継者を見つけて従業員に経営を譲るケースもあるでしょう。しかし、若い層が少なく、多くの従業員が経営者と一緒に高齢化している会社が多いことも廃業、倒産が増えている理由です。
運送業が倒産する原因の人手不足問題を解消するのが難しい理由
ここからは多くの企業が倒産する原因になっているにも関わらず、運送業界全体で人手不足をなかなか解消できない理由を解説していきましょう。
待遇を上げることが難しい
運送の業務自体は増えているのに、トラックドライバーの収入はあまり上がっているとは言えません。
この原因のひとつに、近年増えているECサイトからの需要が、「送料無料」を売りとしている事実があります。ECサイト側が送料を負担して送料無料のサービスを提供していれば運送業界には問題はないのですが、送料無料サービスのしわ寄せは運送業者にも及んでおり、多くの会社で経営上の負担となっています。
会社自体が利益を上げていれば給与を上げることもできるのでしょうが、企業として収益が上がらない状態が続く中では、業務量が増えても従業員の待遇が上がらないのです。
また、運送業にとって大きな出費である燃料費が高騰したときに経営を圧迫するという事情もあり、経営者が賃上げに踏み切りにくい背景もあります。
運送業へのイメージの悪化
運送業はいわゆる3K(危険、きつい、帰れない)として認識されており、ブラックなイメージを持たれている現状があります。実際には水準並みの給与を払い、一定の休みを取れる会社も多く存在し、決してブラックな会社ばかりではありません。しかし、社会的には運送業に対してプラスのイメージが少ない傾向が顕著です。
2019年にある民間企業が行った調査では、運送/配送業に対して「プラスのイメージはない」と答えた人が、業界内で働いている人では41.0%、業界外の人からは55.0%もありました。この比率で言えば、世間の半数以上の人が運送業にマイナスイメージを持っていることになります。
具体的なマイナスイメージとして最も多いのは、「肉体への負担が多い」という項目で、2番目が「労働時間が長い」となっており、他にも「賃金が安い」、「休日の日数が少ない」、「危険な仕事である」などが並んでいます。この結果を見ると、やはり3Kの印象が濃くなっていることは非常に明確です。
上記でも参考にしている、厚生労働省『トラック運送業の現状等について』で2018年の有効求人倍数を見ると、全産業が1.35倍であるのに貨物自動車運転手は2.68倍と明らかに高い数値が見られます。これは募集している数に対して応募者が少ないことを示しており、運送業に就こうとする人が減っているのは明確です。
少子高齢化による従業員の高齢化
2015年に総務省が出した労働力調査のデータでは、29歳以下の若者でトラックドライバーの仕事をしている人は9.1%しか存在しません。一方、40~54歳までの年齢層のトラックドライバーは45.2%と多く、明らかに年齢分布が不均衡なことがわかります。
ちなみに全産業の平均値を見ると、29歳以下の人は16.3%、40~54歳の層は34.7%という数値があり、運送業界より明らかにバランスが良いことがわかります。このように、運送業界の若者離れと高齢化の進行は深刻な事態におちいっています。
そもそもトラックドライバーは、一般の運転免許証以外に、数十万円の費用をかけて中型、大型免許を取得しなければなりません。それなのに、高収入どころか平均的な収入も望みにくいとなれば、わざわざお金と時間をかけて特殊な免許を取得したいと思う人が少なくなるのは当然のこととも言えるでしょう。
運送業が倒産するその他の原因
ここからは、運送業が倒産するその他の原因について解説していきます。
売上が安定しない傾向にある
運送業は依頼を受けてから稼働する業務です。会社によってある程度定期的な業務を受注しているところもありますが、先行きが見えにくい業態であることは間違いありません。年末年始やお中元の時期など、購入や配送が増える時期に季節的な傾向はあるものの、実は景気によって仕事量の変動が大きいことも運送業の大きな特徴です。
そのため、年末年始などの繁忙期の増収を期待していても、景気が悪化して思うほど売上が上がらないということも決して珍しくはないのです。
資金繰りが悪化しがちな業態である
運送業はECサイトの普及や、コロナ禍による配送の増加などで仕事の総数自体は増える傾向にあります。
しかし、ここまで何度も書いてきたように、人手不足が年々深刻化しています。人手不足が深刻化するほど、業務依頼やトラックはあってもドライバーがいないことで仕事が受けられないという事態が発生します。
また、運送業界は支払いサイト(仕事をしてから代金が支払われるまでの期間)が平均的に長い傾向があり、手形での支払いも多い特徴があります。そのため、燃料費や高速道路の利用料、事務所の固定費や人件費の支払いなどが先行して、会社として現金が不足しがちな業界でもあります。
これらの理由から、資金繰りが悪化しやすいため、経営者としても無理に継続するより倒産や廃業を選ぶことが多いのです。
荷待ち・ラストマイルといった時間ロスによる収益の悪化
厚生労働省の『トラック運送業の現状等について』では、2016年の全産業の平均労働時間値が2,124時間と記載されています。これに対して、中小トラックドライバーは2,484時間(平均値の1.17倍)、大型トラックドライバーは2,604時間(平均値の1.23倍)と発表されています。
これは荷物を積み下ろしする場所に遅れないように到着しなければならない上に、早く着いても積み下ろしはできずに約束の時間まで待たなければならない「荷待ち」と呼ばれる時間が長いことが原因となっています。
また「ラストマイル」、「ラストワンマイル」と呼ばれる問題も、トラックドライバーの時間ロスにつながっています。これは指定時間の範囲内に届けようとしても受取人が不在だったことで再配達をせざるを得なくなり、業務の効率が劇的に悪化することから起こる問題です。最近は「置き配」という方法を取ることも増えていますが、直接渡すことを指定されている荷物もあるため全体の改善には至っていません。
トラブルによる急な出費への対応ができない
運送業は常にトラックというハードウェアを駆使して業務を行っています。そのため、トラックの故障に対する費用が必要となります。また、各ドライバーは安全運転に努めていても、走行時間が長くなれば事故が発生するリスクが上がり、賠償が発生するケースも見られます。
賠償自体は保険で対応できたとしても、事故によるトラックの修理や、修理期間中に業務が行えなくなるなど不利な状況が発生し続けます。
ブルック・コンサルティングができる、運送業の倒産を防ぐサポート
企業の経営改善や資金調達を得意とするブルック・コンサルティングは、運送業の倒産を防ぐための経営診断や資金繰り改善のサポートを行っています。
経営改善や資金調達の具体的な方法としては、ファクタリング会社の紹介や、国や地方自治体が運営する運送業向けの補助金を紹介、申請書作成の代行などを行っています。
ファクタリングは売掛金があれば比較的素早く現金化できる方法です。借り入れではないので返済の必要が無く、急いで現金を用意したいときに非常に有効な手段です。
また、補助金・助成金は申請の手間はありますが、返済の必要が無い資金を手にすることができますから、資金繰りの困難を一気に改善できる契機になります。ぜひ前向きにご利用ください。
まとめ
運送業の倒産が増えている事実や、その理由を解説し、倒産を回避するための資金調達方法をまとめました。コラム内では運送業は厳しい側面を多数記述しましたが、業務数自体は明確に増えているわけですから、業界全体として改善のチャンスはあります。ぜひあきらめることなく、経営改善や補助金・助成金の申請を前向きにご検討ください。
また、ブルック・コンサルティングはM&A後の円滑な事業支援も行っております。運送業の経営改善、資金調達をお考えであれば、多数の実績を持つブルック・コンサルティングにお気軽にご相談ください。